先日、被災地を訪問した足で、
久々に宮城県の障がい者施設「蔵王すずしろ」さんを訪れました。
僕らは映画『うまれる』を製作する前に2年ほど、こちらで
ドキュメンタリーを作らせていただいていて、
当時、大変お世話になりました。
障がいを持った、たくさんの方々と接しさせていただく事によって、
たくさんの事を学ばせていただき、また、
笑いの絶えない毎日をすごさせていただきました。
皆さん、僕らの事をすごーーく慕ってくれていて、
言葉を喋れる人も、そうでない人も、
撮影に行くたびに、
皆、仕事そっちのけで走って寄ってきてくれたり(笑)、
昼食時に僕らのところに群がってきてくれたのを、
よーーく覚えています。
今回、約5年ぶりに娘連れで訪問しました。
「僕らの事、覚えてくれてるかなぁ」
若干、不安がありましたが、
皆、僕と朋子の事を覚えてくれていて、
笑顔でハグ、握手、挨拶してくれて、
すごく嬉しかったです。
娘の事も「赤ちゃん! 赤ちゃん!」と可愛がってくれました。
※ 皆に可愛がってもらえて娘もご機嫌!
2007年当時は、「仕事と障がい者」という、
一見、相反するテーマで、
ドキュメンタリー製作をさせていただいていたのですが、
この「蔵王すずしろ」という施設は、
本当にたくさんの事を教えてくれる場所でした。
「蔵王すずしろ」を統括している
社会福祉法人はらから福祉会の
武田元(はじめ)理事長がすごい人で、
元々、彼は養護教諭だったんです。
※ 左が武田理事長
しかし、
学校を卒業していく子どもたちが
皆、仕事もなく、家でひきこもり、
生きる意欲を失っていく現状を目の当たりにし、
自殺者まで出てしまった事で、
「障がい者が働く場所を作ろう」
と仲間の方々と約35年前に一念発起しました。
当時、武田さんは40歳だったので、
今の僕と同じ年齢です。
小さなお子さんもいる中で安定した職を辞めるというのは、
相当な決心だったかと思います。
その後、様々な苦労を重ねてきた武田さんたちに追い風が吹き始めたのは、
豆腐作りを始めてからです。
「障がい者が豆腐なんて作れるの?」
と周りには大反対されましたが、
武田さん曰く
「障がい者が豆腐を作れないなんて、誰が決めたんだ?」
と皆の心のバリアを取る事につとめました。
武田さんには勝算があったからです。
※ 蔵王すずしろの職員の皆さま
宮城県蔵王町の当地は、
豆腐作りに大切な、豆と水に恵まれています。
豆腐は日本人の生活に密着しているため、
少なからずニーズがある。
材料は高いレベルで揃っているので
職人さんに方法論を教えてもらい、
仕事を究極に細分化すれば、
障がい者にも豆腐が作れるはず。。。
実際、様々な苦労がありましたが、
「すずしろ」は豆腐工場として生まれ変わり、
今では【年商数億円】を売り上げています。
億単位の収益を上げている障がい者施設は
日本全国探しても、ほとんどありませんので、
現在は多くの障がい者施設が「すずしろに続け」と
豆腐作りを始めています。
武田さんが豆腐作りにこだわった理由は、
実は「儲かるから」です。
誤解のないように説明いたしますと、
障がいを持った方々は、ごく普通の生活を送るために、
現実的にお金を必要としています。
驚かれるかもしれませんが、
【全国の障がい者の平均賃金は約13,000円】
です。
障がい者年金として毎月数万円が国から支給されますが、
10万円を超える事はありませんので、
実質的に家族からの経済的な支援がない限り、
彼らが生きていく事は出来ません。
その現実に対処するため、
武田さんは
「しっかりと収益を上げる事で、障がいを持った人たちを自立させる」
事をミッションとして遂行されています。
単純な「お金儲け」とは、「価値観」が違います。
そして、この豆腐事業の「副産物」が「生きる意欲」でした。
豆腐を「美味しい」と食べてくれる方、
実際に飛ぶように売れて行く様を見て、
「自分にも出来ることがある」
「自分たちの商品が世の中の人に必要とされている」
このような実感が障がい者の方々に与えた影響は甚大でした。
笑顔が増え、
自尊心が高まり、
生きる意欲を取り戻していったのです。
障がい者施設は原則的に「福祉施設」であるため、
「しっかりとお金を稼ごう」という資本主義的なスローガンには、
様々な評価があるようですが、
武田さんはそのような事には一切、惑わされていません。
「じゃあ、誰がこの子たちの面倒を見てくれるんですか?」
と。
「人間的に生きていくためにはお金が必要。
福祉施設であるとかは関係がない。
そこにいる人たちをどう手助けできるかが僕らの仕事。」
と、確信を持ってお話される武田さんを
僕は心の底から尊敬しています。
障がいを持った方が、
仕事によって生きる価値を見いだし、
人間的な生活を送りながら、
自立する。
いまでは夢のようなミッションですが、
それが夢でなくなるまで、武田さんは走り続けます。
★ 蔵王すずしろ公式ホームページ
http://www.harakara.jp/facilities/facilities.rhtml?blg_oid=100007
監督・父
豪田トモ
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