宮城県蔵王町の障がい施設「蔵王すずしろ」には、
しょういち君という30代の男性がいます。
写真の通り、見た目的にはごく普通のイケメン男子ですが、
脳機能の障害のため、自分で歩いたり、話したりと言った事が出来ません。
※ 左がしょういち君
「蔵王すずしろ」では重度の障がいを持った方々は
「おから班」に配属され、
おからを袋に詰めたり、伸ばしたり、袋の口を止めたりという
仕事をしていますが、しょういち君はそのような作業も難しいため、
基本的には毎日、おから班で座っているだけ、という状態です。
今回は、そんな、
しょういち君から僕が学ばせていただいた事、
そしてそれが
映画『うまれる』の製作に実は大きく活かされている事を
書かせていただこうと思います。
※ 左が山川亜紀ちゃん
6年ほど前にこちらの施設で撮影をさせていただいていた時、
おから班にもよく来ていました。
以前は働く事を拒否していた山川亜紀ちゃんという重度のダウン症の女性が、
「おからを詰める」という仕事を与えたところ、
「自分にも出来そうだ」
「自分も人の役に立てそうだ」
と感じた事によって、
仕事を一生懸命するようになり、いつの間にか、
おから班のリーダー的な存在になった、
というストーリーが僕らを大きく惹き付けたからです。
この話から
・仕事を細分化する等、様々な工夫をする事で、「働けない」と
思われている重度の方にも仕事を与えられる。
・仕事をする事によって、人は生きる意欲を取り戻す。
という事を教わりましたが、
その、おから班で撮影をしている時、
いつも僕らの事をじっと座って見つめていたのが、
しょういち君でした。
挨拶しても話しかけても反応はなく、
視点は色々なところにゆっくりと動いていくため、
僕らの言っている事、
そもそも僕らが存在している事が分かっているのかどうか、
当時はよく分かりませんでしたが、
でも、しょういち君と会うたびに、
他の職員の方々を真似て、「こんにちは!」と
笑顔で挨拶する事にしていました。
そんな中、4回目か、5回目かに訪問した時でしょうか、
いつものようにしょういち君に
「こんにちは!」
と挨拶すると、
初めて、
ニコッと笑ってくれた
んです。
スタッフ一同、
「おお! しょういち君が笑ってくれた!」
と大盛り上がり!
それから、しょういち君の態度といいますか、
表情といいますか、何かこう温かくなっていった気がするんです。
その時に撮れた写真がこれです。
※ しょういち君が笑ってくれた!!
この、しょういち君の笑顔によって、
僕らは
1. 障がいを持っている事で、色々な事が分かっていなそうに見えても、
しっかりと分かっている。
2. 単にアウトプットするという機能に障がいがあるだけで、
もしかしたらインプットはちゃんと出来ているのかもしれない。
という2点を学びました。
これは、その後、18トリソミーの虎ちゃんを撮影させていただく上でも、
実は大きく活かされているんです。
僕らの存在や声がけに虎ちゃんが反応をしてくれる事はなくても、
「ちゃんと分かっている」
という前提で、ごくごく普通に接する事が出来るようになったんです。
そしてこの事は、赤ちゃんや子どもと接する時も同じで、
特に娘を育てる上で最も心がけている事の一つになりました。
「ちゃんと分かっている」
と思うと、自然と娘に対する信頼感が出ると言うか、
僕らの気持ちも不思議と落ち着くんですよね。
※ 娘の詩草(しぐさ)が生後8ヶ月くらいの頃
虎ちゃん一家と良い形で撮影をさせていただけているのも、
娘が順調に育っているのも、
そして現在、痴呆症の方の多い老人ホームでも撮影させて
いただいていますが、
原点は6年前にしょういち君に出会った事が大きいのかな、
と思い返します。
「障がい者は社会の役に立たない」というような言い方をする事が
ありますが、見方を変えれば良いだけの話。
「生産性」というものは決して高いとは言えないかもしれませんが、
人が生きるという事、
育てるという事、
障がいを持った方々は、
たくさんの価値観を教えてくれます。
監督・父
豪田トモ
コメントする