先日からの九州北部での豪雨災害では、
多くの方が犠牲になられたとのこと、、、
ニュースを拝見するたびに、
僕たちも大変心を痛めております。。。
甚大な被害を受けられた皆さまに対して、
心よりお見舞い申し上げます。
復旧には多大なご苦労があるかとは存じますが、
1日も早く、日々の生活に戻れますことを心から願っております。
先日、熊本の慈恵病院にある「こうのとりのゆりかご」の
活動に長らく中心的に従事されていた、
元看護部長で助産師の田尻由貴子さんと久々にお会いしました。
僕は田尻さんのことを
「日本のマザーテレサ」と呼んでいますが(^^)、
生まれ変わったらこんな人になりたい!と思うような、
ほんとーーーーに!人類への愛の塊のような素敵な女性!
2013年には、
田尻由貴子さんをモデルにした2時間ドラマがTBSで放映されて
大きな話題となりました。
http://www.tbs.co.jp/kounotorinoyurikago/
主演は薬師丸ひろ子さんだったんですが、
田尻さんは、「似てるかしら~、おほほほほほ」と
嬉しそうに笑いながら恐縮されていました。
ラブリーな方です。
彼女みたいな方がいたからこそ、
「こうのとりのゆりかご」が成り立ったんだろうなぁと思います。
「こうのとりのゆりかご」とは、
事情により育てられなくなった親が、
匿名で赤ちゃんを預けることができる場所。
僕も3回ほど訪れた事がありますが、
言葉で言い表すのがためらわれるほど、重厚な空気感があります。
※「こうのとりのゆりかご」は、いわゆる"赤ちゃんポスト"とも
呼ばれていますが、この"ポスト"というマスコミが付けた呼び方には
非難的な声も多くあり、活動されている方々はそう呼んでいないし、
僕も誤解を与える表現だと思うので、
ここでは「こうのとりのゆりかご」で統一します。
創設された当時は、
「親が子を捨てる事は許せない」と倫理面で怒りを覚える人や、
「匿名で預けることで赤ちゃんを遺棄や育児放棄を
助長してしまうのではないか」、
「子どもが将来、親を知りたくなった時に知れなくなってしまい、
出自を知る権利を奪う」、
「本来なら親が養うべき子どものために自分たちの納めている
税金が使われるのはおかしい」、
など憤る人も多かったようで、
マスコミでも非常に批判的に、大きく取り上げられましたので、
覚えていらっしゃる方も多いと思います。
いまでも賛否両論渦巻いているようですが、
田尻さん自身も、当時は「大変な騒ぎだった」とおっしゃっていました。
僕はこの「こうのとりのゆりかご」の活動に関しては、
心から賛同しています。
批判については理解出来る点はありますが、
慈恵病院の蓮田理事長の視点は
「目の前で命が奪われてしまう赤ちゃんを救う」
という事。
「こうのとりのゆりかご」とは言わば、「救命救急」のようなもの
なので、そこに原因や責任論をこれみよがしに投げかけるのは
どうなのかなぁと個人的には思います。
例えば、血を流している人や
死にかけている人が目の前にいて、
「なんでそうなったんだ!?」
「そんな事が許されるのか!?」
とは言わないですよね。
そういうのは後でやるべきで、まずは目の前の命を助けるのが先。
名前を言わないと助けませんよ、とはならないと思うんです。
目の前で赤ちゃんが捨てられているのであれば、
まずは倫理的にどうこういう前に、手を差し伸べる、命を救う事を優先する、
というのは、理にかなっている事のように僕は思います。
もちろん、これは赤ちゃんを捨てる事や虐待についての賛同ではありません。
絶対的に良くない事だし、社会として根絶する方向で
頑張るべき課題ではありますが、
様々なお話を聞いていくと、
出産と子育てには理想論だけでは語れない現実も見えてくるんです。
ただ、
「こうのとりのゆりかご」が「救命救急」だ
という感覚がないと、
また、予期しない妊娠をしてしまう辛さや、
パートナーに逃げられてしまって経済的にも困り果ててしまう人の
気持ちが想像できないと、
「こうのとりのゆりかごの倫理」
がなかなか伝わりにくいかもしれません。
僕も
これが「救命救急」なんだ、という感覚がなかった頃、
赤ちゃんの遺棄や虐待を肌身に感じられていなかった頃は、
「こうのとりのゆりかご」に
否定的な捉え方をしていた時期がありました。
まだ『うまれる』をつくっておらず、
親と和解もしておらず、
子育てなんて想像すらしていなかった頃、
周産期に関わる取材なんてしているわけもなく、
「産める」身体があるが故に、
時に、苦悩も多く抱える女性を目の当たりにする前は、
「赤ちゃんを捨てられるポスト」
だと、額面通りに受け取っていたので、
ネガティブに考える人たちの気持ちも分かります。
様々な誤解や批判を受ける中、
「こうのとりのゆりかご」は、子どもの命を守る、という
創設目的を遂行し続け、
今年で10周年を迎えました。
これまでたくさんの方々が活動し、
真摯にいのちを救ってこられたと思いますので、
何よりもその事に対して、心から敬意を表したいと思います。
【これまでに「こうのとりのゆりかご」よって救われた赤ちゃんの命は130人】
実際の利用件数は、
開設2年目の25人がピークで、
平均的に年間10人前後となっています。
また、
田尻さんたちは、
育てられない赤ちゃんを受け入れる体制作りだけでなく、
女性たちが事前に電話やメールで相談することができる、
「SOS赤ちゃんとお母さんの相談窓口」の体制を充実させてきました。
相談内容は、
予期しない妊娠や中絶、娘の妊娠をどうしたらいいか、、、
など様々のようで、
開設当初は年間500件程度だった相談が、
現在では年間6,500件近くになっているそうです。
それだけ、『うまれる』事に孤独に悩み、
苦しんでいる方が多いという事ですね。。。
しかも、
内容的に一度の相談で問題が解決できるような状況ではなく、
簡単に電話が切れるようなものではないですし、
複数回に渡って対応されるものも多いようです。
この相談に対応するため、
助産師さん、看護師さん、保健師さんなど、
社会福祉や児童福祉の専門知識を持っているスタッフを
10人近く配置しているようですが、
慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」では、
ボランティアで行っているんです。
これは、とても一つの病院がやる事ではないような気がします
(当然、本来はかけなくても良い莫大なコストがかかっているはずです)。
もしかしたら、
電話をする方々は、無料で相談にのってくれるし、
行政のサービスだと思っているかもしれませんが、
違います。
熊本にある、いのちに真剣に向き合う、いち病院が、
自ら荷を背負っているのです。
誰に何と言われようと、
自分たちの信じた事を遂行し続ける
慈恵病院と蓮田理事長の行動力、継続力はホントに凄いと思います。
批判する事ほど簡単なものはありません。
意見するのも楽。
でも、実行し続けるのってホントにしんどいですから。
田尻さんは、「こうのとりのゆりかご」のいらない社会になることが
一番だとおっしゃっています。
僕もそう思います。
でも、残念ながら、いまは必要です。
2014年の厚労省の統計では、
児童虐待による死亡は44人。
約1週間に1人の未来ある尊い命が亡くなっています。
そのうちの約60%は0歳児で、生後すぐに死亡したケースが大半です。
「こうのとりのゆりかご」で預かったお子さんのうち、
80%が生後一ヶ月未満で、多くに医療的ケアが必要な状態だったと言います。
性が氾濫し、
パートナーシップや性、結婚などに関する教育が不足すればするほど、
「こうのとりのゆりかご」や児童相談所が対応を必要とされるケースが
増えるのではないかと思います。
一方、
「こうのとりのゆりかご」を開設して最初に預けられた子どもは
3歳の男の子だったようですが、現在は、中学生になっています。
先日の、NHKの「クローズアップ現代」でも取り上げられていましたが、
自分を生んだ親を知りたい、という出自の権利の問題は常に付きまといます。
ただ、
このような状況下で、
すべての課題を完璧に解決していくのは至難の業です。
ツッコもうと思えば、
きっといくらでも出来るでしょうけれど、
僕らがするべきなのは、
見守りつつ、応援する事じゃないかな、と思っています。
子育ても同じですけど、
周りから見れば、きっとツッコミどころはたくさんあると思う。
でも、すべての親は、
自分たちなりに色々考えて、想いを抱えて頑張っています。
一つ一つの点を指摘されるよりも、
見守ってくれて、応援してくれる方が嬉しいと思いませんか?
力になると思いませんか?
「こうのとりのゆりかご」の当事者の方々もきっとそうだと思うんです。
現在田尻さんは、
既に慈恵病院を退職し、
これまでのご経験を活かして、多岐に渡る活動をされています。
いのちに関する講演をされたり、
妊娠・子育てに悩む人たちの相談窓口の開設や
特別養子縁組の普及をめざす活動にも従事されています。
まだまだ、田尻さんの"赤ちゃんの命を救う"旅路は続いていきます。
僕たちも、自分たちに出来ることを真摯に邁進していきたいと思います。
「こうのとりのゆりかご」に従事される皆さま、
大変な毎日を過ごされているかと思いますが、
きっと皆さまのおかげで救われているいのち、心、家族があると思います。
今後のご活動を応援しています。
★田尻由貴子さんのご著書
『はい。赤ちゃん相談室、田尻です。』田尻由貴子/ミネルヴァ書房
http://amzn.to/2tbqeH1
監督・父
豪田トモ