「これ、ドキュメンタリー映画って言っていいんだろうか?」
というのが、ドキュメンタリー映画監督としての最初の一言。
さてさて、映画『83歳のやさしいスパイ」。
ある老人ホームの入居者に虐待疑惑があり、
その事実を突き止めるために、83歳のおじいちゃんがスパイに入る、というお話でございやす。
もうね、これだけで面白い!!!。
だいたいの映画プロデューサーは、
この筋だけで、きっと脚本を買うと思うww。
ただ、これ、ジャンルとしては「ドキュメンタリー」。
スパイのおじいちゃんも、入居者も一般の方で、
流れのままに撮影している。
ドキュメンタリー映画監督として見ると、
もしかすると、この作品は、
2つの点で
「新しいジャンルの映画」
と呼べるかもしれない。
一つは、ストーリー的な視点。
求人広告に応募してきた
83歳のおじいちゃんが老人ホームにスパイに入る、
と言う奇想天外なストーリーではあるんですが、
ベーシックな内容としては、
・老人ホームにはどのような人たちがいて、
・どのように生活をしていて、
・どのような寂しい思いを持っているか、
を紹介する、
実は、「いままでに何回か見たこと有り気」なドキュメンタリーなんですよ。
ただ、
「スパイ」
と言うアングルが入ることで、
老人ホームの物語を、全く違う視点で、
時に楽しく、見ることができます。
これは新しい切り込み方だねぇ。
勉強になります。メモメモ。
2点目は、
「新しい」と言っていいのか分からないけれども、
「シネマティック・ドキュメンタリー」
とも言えるような撮影方法。
ドキュメンタリーならではの、
生々しさやリアルな雰囲気、荒々しい映像などは、
ほぼ排除。
カットカット!!
ライティングやアングルはすべて計算され、
三脚に置かれたカメラによって、
安定的に、そして美しく撮影されています。
このシネマティックな撮り方によって、
映画として、とっても「見やすく」なっている。
ドキュメンタリーならではの「リアル感」は
だいぶ失われてしまっているけれど、
主人公のセルヒオじいちゃんを始め、
出てくるおばあちゃんたちのキャラクター性が良い感じで濃く、
彼女たちと主人公が絡むストーリーも、
考えさせられるものや笑えるもの、学びになるもの、
心が温かくなるものなどが多様なので、
彼らが抱える孤独に共感しまくるので
まーーったく退屈しません。
今回、僕は『こどもかいぎ』と言う映画で
保育園の中で撮影させてもらったけれど、
「施設の中」
と言うのは、
そこにいる人にとっては日常なんだけど、
一歩外にいる人にとっては、
実は非現実的な「異世界」にあたる
すごく興味深い場所なんですよね。
日常とはちょっと違った世界を覗いてみたい人や、
新しいジャンルの映画を体験してみたい人には、オススメですね。
ただ......、
これ書いていいのか分からないけれど、
15年以上ドキュメンタリーをやっている身としては、
「ドキュメンタリー」としての「真実性」はちょっと怪しい感じがしましたよ(笑)。
プロ視点で見ると、
ああいう映像を撮るには、
ロケハンして、コンテを作って、アングルを決めて、
ライトを持ち込んでセッティングして、という準備を1時間近くかけた上で、
「じゃあ、あなたはこっち側に立ってもらって、あなたはあっち側。
カメラはここにあるので、これは見ないように会話してください。はい、スタート」
という感じで撮影しないと撮れないことが分かる。
それ以上に、あんな完璧なストーリー展開が、
たった3ヶ月で撮りきれるものかなぁ......、と首をかしげたくなっちゃう。
ドキュメンタリーをやっている者として、
ちょっぴり嫉妬も入った話かもしれない(笑)。
だって、すごく良くできているからさ!
なので、ちょっと
「ドキュメンタリー」
と言っていいのか分からない表現方法であるし、
ドキュメンタリー原理主義者的な考えを持つ人からは、
反発される表現方法であるかもしれないけれど、
個人的には、まぁ、面白けりゃいいのかな?という気もするし、
ある意味、
「新しいジャンルの映画」
と言ってもいいかもしれない。
それもこれも含めて、見所はたっぷり!
退屈せずに、楽しく、有意義な時間を過ごせることは保証しますっ!
こういう映画って皆さん、どう思うのかなぁ?
☆ 『83歳のやさしいスパイ』公式サイト
http://83spy.com/
監督・父
豪田トモ
★新作映画『こどもかいぎ』応援団を募集中〜!
https://www.umareru.jp/kodomokaigi/