企画・監督・撮影の豪田トモが『ずっと、いっしょ。』に取り組む事になったのは、前作『うまれる』公開と同時に、自身が父親になった事がきっかけだ。
長年の両親との不和から自身の家族作りに不安を抱えていた豪田は、約半年の育休を経て、再びカメラを回す決意をする。
映画作りを通して、家族とは何か、親である事、子どもを育てるという命題に向き合いたいと思ったのだ。
『ずっと、いっしょ。』は最初から3組の家族の生と死を扱うと決まっていたわけではない。
「僕のドキュメンタリーは、出演していただく方々とのご縁がすべて。自分が作りたいものが作れるわけではないので、いくつかの企画を同時に進めて、何がいつ、どう完成するかは神の計らいに任せる事にしました」(豪田、以下同)と笑う。
当初、豪田は3組の家族それぞれを別の映画にする事を想像していたが、ある時から、
「子連れ再婚によって生まれた家族が新たな命を迎える話と、愛する家族の一員を見送った家族、そして毎日生と死を体感している家族を、一つの映像として連続的に観る事で、また新しい何かが生まれるのではないか」と感じるようになった。
一つの作品としてまとめる方法を模索し始めて見えて来たものが、「いのちは家族によってつながっていく」という、映画のコピーにもなった壮大なテーマだった。
こうしたご縁と予想外の展開から映画は作られていったが、製作中に豪田が特に注目していたのは、「家族」という視点だ。
血のつながらない親子はどうお互いに向き合おうとしているのか、旅立ちを迎える人は何を子どもに残そうとしているのか...
産まれる、生きる、亡くなるという人生の流れの中で、家族、そして父親とは、どのような存在なのかを探求し、作品としてまとめ上げようとした。
ドキュメンタリーにナレーションは不要という意見もあるが、
豪田は「伝わる作品」にこだわり、極力、余計な説明を排しつつ、
ナレーションを使用した。
「生き方が声に現れる」という考えから、ナレーターは映画のテーマに沿った「命・家族・絆に強く向き合う経験をした人」を候補に挙げ、公式ホームページでも投票・募集した。
実は製作側では第一候補として、ある女優を挙げていたが、ユーザー投票で最も得票が集まったのは、奇しくも同人物。
樹木希林だった。
監督の豪田トモが、本作にかける想いを綴った「ラブレター」を送ったところ、樹木希林は即答で快諾。
治療とのバランスから断る仕事の方が多くなってしまっているという樹木が本作のナレーターを引き受けたのはテーマに共感したからだと言う。
「樹木希林さんは長らくがんの治療をされており、また、独特な家族関係を経験していて、彼女にしかない卓越した死生観・家族観がある。70年以上に及ぶ一日一日の積み重ねが、映画に新しい人生観を吹き込んでくれた」
と豪田は樹木の声を絶賛する。
通常の映画は公開の3ヶ月前くらいに公式サイトを立ち上げて
案内を開始するが、『うまれる』シリーズのホームページは
2009年3月から運営している。
豪田が毎日公開している、子育てや家族についてのブログが人気を博し、
月間アクセス数が100万を突破する事もある。
Facebookでは3万人以上のフォローがあり、そこでのコメントなどから「世間の空気感」を感じ取ったり、作品のテーマに関して意見を求める事もある。
インターネットの利用に際して豪田が大切にしている事が、サポーターとの継続的なコミュニケーションだ。
「独りよがりの映画は作りたくないですし、映画は観てくださる方がいてこそ。いろいろと協力してもらいながら、"一緒に作る"方が伝わる作品になるのではないかと思いました」
ホームページを通じて、出演者だけでなく、様々な協力者も募集した。
撮影映像の文字を起こしたり、内容や告知の仕方について話し合うディスカッションに参加するボランティアは200人を超え、賛助金サポーターなどから告知・宣伝費を支援してもらった。
エンドロールで流れる写真は一般の人たちから募集したものだ。
日本映画では珍しく、「完成前テスト試写」というものも実施した。
8割程度完成したところで一般の観客に観てもらうのだ。
編集途中の作品は、様々な誤解を与える可能性がある上、酷評される事で完成までのエネルギーが途絶える事もありうる。
「伝えたい事がきちんと伝わっているか、伝わっていないのであればそれはなぜなのか。最終的には、こちらの意図に反して伝わっていないと判断したものはカットするなどして、伝わる作品を目指しました」
豪田が「伝わる作品」にこだわるのには、理由がある。
「僕は長い間、親に愛されていないと思ってきたんです。親は伝えていたつもりでも、僕には伝わっていなかった。伝えると伝わるって一文字しか違わないけれど、そこには不必要な悲劇を生む土壌がある。自分も相手も幸せになるためには、伝える事以上に伝わる事にこだわらないといけないんです」
映画を作りながら豪田が育てて来た娘は、4歳になる。
100組近い、様々な背景を持つ家族を取材・撮影してきた今、子育てに何か影響はあったのだろうか。
「子育てとは、我が子が"生きる"手助けをする事だと改めて気づきました。生きるとは、産まれ、そして死に向かう旅路ですから、親が明確な"死生観"を持つ事が、子育てにとって大切な事かなと。
どうしても「死」は避けたくなりますが、向き合う事で救われる事がある。向き合う事で何かしらの道筋が現れる。そして親が成長する事で子どもも成長できるんだと思います」
『ずっと、いっしょ。』が完成した後も、豪田は命、家族、絆というテーマに向き合い続けている。豪田は2040年まで、様々な角度から、命、家族、絆をテーマにした「うまれる」シリーズを作り続けると決めている。
<『ずっと、いっしょ。』の技術情報>
【撮影】
※ 登場人物によって異なります。
※ 撮影開始前に約1〜2年のリサーチ・取材期間があります。
CANON EOS C100(メイン)、RED EPIC(フラシーン)、CANON EOS 5D Mark II(一部)、Panasonic AG-HMC155(一部)、sachtler FSB6/2D(三脚)、Manfrotto 561BHDV-1(一脚)
CANON EF16-35mm F2.8L II USM、EF 24-105mm F4L Is USM、EF50mm F1.4 USM、EF 70-200mm F2.8L Is USM、EF 100mm F2.8 マクロUSMなど
【録音(ドキュメント)】
SENNHEISER MKH416P48U(ガンマイク)、SONY UWP-V1、WRT-822 、WRR-861(ピンマイク)、SONY ECM-FT5BMP(マイクオプション)
【CG・アニメーション】
【編集】
Mac Pro(2014年版、プロセッサ: 2.7GHz 12-Core Intel Xeon E5、メモリ32GB)、Final Cut Pro 7
映画『ずっと、いっしょ。』をご覧いただいた皆様へ
昨今、インターネット環境が整い、さらにFacebookやTwitter、ブログ等が急速に普及したことに伴って、個人による情報の発信や検索がかつてないほど容易になっています。
これは素晴らしい事ではあるのですが、一方で、「見えない個人」による誹謗中傷などで深く傷つき、人間不信に陥る方も増えております。
ドキュメンタリー映画を私たちが製作していく上で、ご登場いただいた実在の方々が傷つく事のないよう、私生活が乱されることのないよう、どう「お守り」していくかという命題については、数年前とは大きく異なり、真剣に考えなければならない状況となっています。
映画に登場されるのは「自分たちの経験が多くの方のお役に立てるのなら、、、」と高い志、勇気、責任を持ってご登場いただいた実在の人物であり、映画が公開された後も、彼らの人生は続いていきます。
特に、登場者の中にはお子さんもいらっしゃいますので、映画によってマイナスの影響を受けることのないよう、映画をご覧いただいた皆様には、以下の4点につきまして、ぜひご協力いただきたく思っております。
映画『うまれる』シリーズ
監督・豪田トモ他スタッフ一同 |